大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和30年(タ)23号 判決

原告 エヴレツト・イー・カーナー

被告 ミルドレツド・プリチヤード・カーナー

主文

原告と被告とを離婚する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、原告は一九一九年アメリカ合衆国ミズリー州において出生し、同国の国籍を有するものであり、被告は一九〇七年十二月十一日同国サウス・カロライナ州において出生したものであつて、原告と被告は一九四五年十二月三十一日カリフオルニヤ州において適法に婚姻し、現在夫婦の関係にある。

二、原被告は当初テキサス州において同居生活をしていたが、被告は原告より十才余りも年長者であるうえ酒を好むところから夫婦の間はとかく円満を欠く状態であつたところ、一九四八年七月頃被告は何の理由もないのに無断で家出をした。八方手を尽して探した結果、このときは被告の居所を見出して連れ戻したが、その後六ケ月ばかりして再び家出して、その後は一片の音信も寄せず、原告のあらゆる捜索も空しく、次に述べるような経緯によつて被告の所在を知るに至るまで五年許りの間全くその消息を絶つてしまつた。妻たる被告のこのような所為は明かに悪意をもつて原告を遺棄したものである。

のみならず、一九五四年十一月に至りマサチユーセツツ州スプリングフイールド市長からの書信によつてようやく被告の消息を知り得たところによると、被告はその間姦通罪によつて処刑せられ同月三日かからマサチユウセツツ州フラミンガムにある同州刑務所婦人矯正院に収容せられていることが判明した。姦通は夫たる原告に対する不貞な行為であることは言うまでもない。

三、これよりさき、原告は一九五二年アメリカ合衆国軍人として来日し、現在軍曹の階級にあり、肩書地の雅叙園内に起居して軍務に従事中であるが、除隊後も日本国内に永住したい意思である。

四、離婚の準拠法は法例第十六条の規定によれば、その原因事実の発生当時における夫の本国法によるべきところ、夫たる原告の本国法であるアメリカ合衆国の法律によると離婚については夫の住所地法によることとされているので、法例第二十九条の規定に基き、本件の離婚については結局夫たる原告の住所地法である日本国の法律によるべきである。

しかるところ、以上に述べた被告の悪意の遺棄、及び不貞の行為はそれぞれ日本国民法第七百七十条第一項第二号、及び第一号に該当する。

よつて、被告との離婚を求めるため本訴に及んだ次第である。と陳述した。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は、原告の請求はこれを棄却する、との判決を求め、原告が請求原因として主張している事実は全部認める、と述べた。〈立証省略〉

理由

一、原告が一九一九年六月二十二日アメリカ合衆国ミズリー州において出生し同国の国籍を有するものであり、被告は一九〇七年同国サウス・カロライナ州において出生したものであつて、原告と被告は一九四五年十二月三十一日カリフオルニヤ州において適法に婚姻し現在夫婦の関係にある、との事実は、公文書である甲第一号証(結婚証明書)と原告本人の尋問の結果とによつて認め得る。

二、しかして、成立に争のない甲第二、第五号証、及び、一九五四年十一月三日附「デイリーニユース」紙の切抜であることに争のない甲第三号証と原告本人の尋問の結果とを綜合すると、原告が離婚原因として主張しているすべての事実、即ち、被告が一九四八年の暮頃無断で家出して五年許りの間全くその消息を絶つてしまつたこと、及び、その間被告は姦通罪によつて処刑せられ、一九五四年十一月三日からマサチユーセツツ州刑務所婦人矯正院に収容せられている、との各事実を肯認するに足り、他にこの認定を左右にするような証拠がない。

三、原告は一九五二年十一月頃アメリカ合衆国軍人として来日し、現在軍曹の階級にあり、肩書地の雅叙園内に起居していること、及び、同所はいわゆる兵舎とは違つて軍人の休憩慰安の為めの設備であり、原告は同所内で事務を執るのがその任務となつている関係からそこを住所と考えて居住しているのであつて、除隊後は日本国内に永住したい意思を有している、との事実は、いずれも原告本人の尋問の結果によつてこれを認め得るから、原告は肩書地にその住所を有しているものというべきである。

四、離婚の準拠法は法例第十六条の規定によれば、その原因事実の発生当時における夫の本国法によるべきところ、夫たる原告の本国法であるアメリカ合衆国の法律によると離婚については夫の住所地法によるべきであることが明であるので、法例第二十九条の規定に基き、本件の離婚については結局夫たる原告の住所地であること前に認定したとおりである日本国の法律によるべきことになる。

しかるところ、被告の前に認定した所為は、それぞれ日本国民法第七百七十條第一項第二号にいう悪意の遺棄、及び同項第一号にいう不貞な行為に該当することは明かである。

よつて、被告との離婚を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することにし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤令造 田中宗雄 高橋太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例